【大分類】活血化瘀薬(理血薬)…血行を促して、瘀血を除去する中薬です。
【学名】…Ligusticum wallichii
【別名】…四川ラビジ
料理用ハーブとして主に使われるヨーロッパのラビジや、北米で人気のあるハーブ、オシャ(学名L.porteri)の仲間です。
中国では、月経異常や心臓疾患の際に血を活気づける治療薬として14世紀から使用されています。
また、腹痛に関連する肝臓の気の停滞を緩和し、頭痛にも有効な生薬です。
身体のバランスをとる薬です。
熱感よりも寒けが強い風邪による頭痛、偏頭痛、肩こりによく効きます。
【中国産地】…四川省、雲南省
【日本産地】…北海道、宮城、岩手、奈良
当帰(カラトウキ)、白芍薬(シャクヤク)、および熟地黄(キツネノテブクロ)と配合して、月経不順や貧血の煎じ薬、四物湯に使用。
●朝鮮人参(チヨウセンニンジン)、白朮(オケラ)、当帰(カラトウキ)などの生薬を配合して、月経異常の煎じ薬、八珍湯に使用。
●柴胡(サイコ)あるいは蒼朮(シナオケラ)と配合して消化不良や腹痛の治療に使用(五積散など)。
血と気の循環を促進する。
・風に起因する痛み.頭痛。
・皮膚発疹を和らげる。
・気を上方に動かす。
薬物の治療効果と密接に関係する薬性理論(四気五味・昇降浮沈・帰経・有毒と無毒・配合・禁忌)の柱となるのが次に掲げる「性・味・帰経」です。
【温寒】…
温
※性:中薬はその性質によって「寒・涼・平・熱・温」に分かれます。例えぱ、患者の熱を抑える作用のある生薬の性は寒(涼)性であり、冷えの症状を改善する生薬の性は熱(温)性です。寒性、涼性の生薬は体を冷やし、消炎・鎮静作用があり、熱性、温性の生薬は体を温め、興奮作用があります。
性質 | 作用 | 対象となる病証 |
---|---|---|
寒/涼 |
熱を下げる。火邪を取り除く。毒素を取り除く。 |
熱証。陽証。陰虚証。 |
熱/温 |
体内を温める。寒邪を追い出す。陽を強める。 |
寒証。陰証。陽虚証。 |
平 |
熱を取り除き、内部を温める2つの作用をより穏やかに行う。 |
すべての病証。 |
味 | 作用 | 対象となる病証 | 対象五臓 |
---|---|---|---|
辛(辛味) |
消散する/移動させる。体を温め、発散作用。 |
外証。風証。気滞証。血瘀証。 |
肺に作用。 |
酸(酸味)すっぱい。渋い。 |
縮小させる(収縮・固渋作用)。 |
虚に起因する発汗。虚に起因する出血。慢性的な下痢。尿失禁。 |
肝に作用。 |
甘(甘味) |
補う。解毒する。軽減する。薬能の調整。緊張緩和・滋養強壮作用。 |
陰虚。陽虚。気虚。 |
脾に作用。 |
鹹(塩味)塩辛い。 |
軟化と排除。大腸を滑らかにする。しこりを和らげる軟化作用。 |
リンパ系その他のシステムが戦っているときの腫れ。 |
腎に作用。 |
苦(苦味) |
上逆する気を戻す。湿邪を乾燥させる。気血の働きを活性化させる。熱をとって固める作用。 |
咳・嘔吐・停滞が原因の便秘。排尿障害。水湿証。肺気の停滞に起因する咳。血瘀証。 |
心に作用。 |
淡(淡味) |
利尿。 |
水湿証。 |
― |
【薬効】…月経調整作用 活血作用 鎮痛作用
【薬理作用】…活血行氣、祛風止痛、氣血をめぐらせ、風邪による頭痛・関節痛などの痛みを止める。
【学名】…Ligusticum wallichii
【禁忌】…陰虚や肝臓の陽の過剰に起因する頭痛には使用しないこと。
また、妊娠中および月経過多症の場合は使用を避けること。
●日本薬局方
【出典】…神膿本草経
【三品分類(中国古代の分類)】… 神農本草経や名医別録などでの生薬分類法
上品(不老長生薬)
【基原(素材)】…セリ科川芎または同属植物の根茎です。中国の四川省が主産地なので、この名があります。
図01:川芎の植物画像
図02:川芎の生薬画像
図03:川芎の植物画像2
図04:川芎の植物画像3
本中薬(川芎)を使用している方剤へのリンクは次のとおりです。
温経湯 »
温清飲 »
葛根湯加川芎辛夷 »
芎帰膠艾湯 »
荊芥連翹湯 »
五積散 »
柴胡清肝湯 »
酸棗仁湯 »
七物降下湯 »
四物湯 »
十全大補湯 »
十味敗毒湯 »
川芎茶調散 »
清上防風湯 »
疎経活血湯 »
大防風湯 »
治打撲一方 »
治頭瘡一方 »
当帰飲子 »
当帰芍薬散 »
女神散 »
防風通聖散 »
抑肝散 »
芎帰調血飲 »
芎帰調血飲第一加減 »
冠心Ⅱ号方 »
生薬は、薬草を現代医学により分析し、効果があると確認された有効成分を利用する薬です。 生薬のほとんどは「日本薬局方」に薬として載せられているので、医師が保険のきく薬として処方する場合もあります。
中薬は、本場中国における漢方薬の呼び名です。薬草単体で使用するときを中薬、複数組み合わせるときは、方剤と呼び分けることもあります。
本来中薬は、患者個人の証に合わせて成分を調整して作るものですが、方剤の処方を前もって作成した錠剤や液剤が数多く発売されています。これらは、中成薬と呼ばれています。
従って、中国の中成薬と日本の漢方エキス剤は、ほぼ同様な医薬品といえます。
●生薬「川芎」はセンキュウ Cnidium officinale Makino の根茎を通例、湯通しして乾燥したものです。
●中国原産と推定される多年生草本で、日本で古くから栽培され、寒冷地に適することから、主に北海道、東北地方より産します。
●根茎は塊状、茎は高さ30~60cm、葉柄基部はいずれもさや状になろます。複散形花序を頂生し、多数の白色の花を開くが結実はしません。
●主に婦人薬、冷え症用薬、皮膚疾患用薬、消炎排膿薬として温経湯、酸棗仁湯、当帰芍薬散等に配合されます。
本生薬の古来の名称は芎窮といいます。四川省産のもの(川芎窮)が優れていたので、そのものが単に川芎と呼ばれるようになりました。
セリ科植物の分類には果実の形態が重要ですが、日本や朝鮮半島で栽培されている川芎は花後に果実が成熟せず、植物分類学的な位置がいまだ不明確です。
1.【神農本草経】(西暦112年)
中医薬学の基礎となった書物です。植物薬252種、動物薬67種、鉱物薬46種の合計365種に関する効能と使用方法が記載されています。
※神農:三皇五帝のひとりです。中国古代の伝説上の人といわれます。365種類の生薬について解説した『神農本草経』があり、薬性により上薬、中薬、下薬に分類されています。日本では、東京・お茶の水の湯島聖堂 »に祭られている神農像があり、毎年11月23日(勤労感謝の日)に祭祀が行われます。
2.【本草経集注】(西暦500年頃)
斉代の500年頃に著された陶弘景(とうこうけい)の『本草経集注(しっちゅう)』です。掲載する生薬の数は、『神農本草経』(112年)の2倍に増えました。
松溪論畫圖 仇英(吉林省博物館藏)
陶弘景(456~536年)は、中国南北朝時代(420~589年)の文人、思想家、医学者です。江蘇省句容県の人です。茅山という山中に隠棲し、陰陽五行、山川地理、天文気象にも精通しており、国の吉凶や、祭祀、討伐などの大事が起こると、朝廷が人を遣わして陶弘景に教えを請いました。
そのために山中宰相と呼ばれました。庭に松を植える風習は陶弘景からはじまり、松風の音をこよなく愛したものも陶弘景が最初です。
風が吹くと喜び勇んで庭に下り立ち、松風の音に耳をかたむける陶弘景の姿はまさに仙人として人々の目に映ったことでしょう。
3.【本草項目】(西暦1578年)
30年近い歳月を費やして明代の1578年に完成された李時珍(りじちん)の『本草項目』です。掲載する生薬の数は、約1900種に増えました。
『本草綱目』は、1590年代に金陵(南京)で出版され、その後も版を重ねました。わが国でも、徳川家康が愛読したほか、薬物学の基本文献として尊重され、小野蘭山陵『本草綱目啓蒙』など多くの注釈書、研究書が著されています。
本草綱目は日本などの周辺諸国のみならず、ラテン語などのヨーロッパ語にも訳されて、世界の博物学・本草学に大きな影響を与えています。
儒者・林羅山(1583~1657年)の旧蔵書
李時珍(1518~1593年)は、中国明時代(1368~1644年)の中国・明の医師で本草学者。中国本草学の集大成とも呼ぶべき『本草綱目』や奇経や脉診の解説書である『瀕湖脉学』、『奇経八脉考』を著した。
湖北省圻春県圻州鎮の医家の生まれです。科挙の郷試に失敗し、家にあって古来の漢方薬学書を研究しました。30歳頃からあきたらくなって各地を旅行し調査したり文献を集めたりはじめます。ついに自分の研究成果や新しい分類法を加え、30年の間に3度書き改めて、1578年<万暦6年>『本草綱目』を著して、中国本草学を確立させました。
李時珍、生家にて »
4.【中医臨床のための中薬学】(西暦1992年)
現在、私が使用している本草の辞典です。生薬の記載個数は、約2,700種に増えました。
神戸中医学研究会の編著です。
【薬用部分】…
精油(cnidilide, sedanoic acid)
【中国での一般的服用量】…3~9g
川芎の植物画像