【大分類】温裏薬(散寒薬)…体内の冷えを除去する中薬です。
【学名】…Z. schinifolium SIEB. et ZUCC.
【別名】…山椒・川椒、三焦、花椒、椒紅、椒皮、巴椒、サンショウ
①芳香性健胃薬です。
②咳き、吃逆(しゃっくり)を止めます。
③蛔虫を駆除する力があります。
④歯痛に効きます。
⑤ホルモンの分泌を盛んにします。
【中国産地】…四川省、河北省
【日本産地】…和歌山
1.脾胃虚寒証に、腹部の冷痛、嘔吐、下痢などに用いる。
花椒は温中止痛、暖脾止瀉の作用がある。
脾胃虚寒、?腹冷痛、嘔吐には、人参、乾姜、飴糖などを配合する。例:大建中湯。
また単味で熱くなるまで炒めて、布袋に入れて痛いところを温熨する。
もし、寒湿による下痢には、蒼朮、厚朴、陳皮などを配伍する。
2.回虫による腹痛、嘔吐などに用いる。
本品は殺虫止痛作用がある。
単味で、あるいは複方で使用する。
常に烏梅、乾姜、黄連などを配伍する。例:烏梅丸。
薬物の治療効果と密接に関係する薬性理論(四気五味・昇降浮沈・帰経・有毒と無毒・配合・禁忌)の柱となるのが次に掲げる「性・味・帰経」です。
【温寒】…
熱
※性:中薬はその性質によって「寒・涼・平・熱・温」に分かれます。例えぱ、患者の熱を抑える作用のある生薬の性は寒(涼)性であり、冷えの症状を改善する生薬の性は熱(温)性です。寒性、涼性の生薬は体を冷やし、消炎・鎮静作用があり、熱性、温性の生薬は体を温め、興奮作用があります。
性質 | 作用 | 対象となる病証 |
---|---|---|
寒/涼 |
熱を下げる。火邪を取り除く。毒素を取り除く。 |
熱証。陽証。陰虚証。 |
熱/温 |
体内を温める。寒邪を追い出す。陽を強める。 |
寒証。陰証。陽虚証。 |
平 |
熱を取り除き、内部を温める2つの作用をより穏やかに行う。 |
すべての病証。 |
味 | 作用 | 対象となる病証 | 対象五臓 |
---|---|---|---|
辛(辛味) |
消散する/移動させる。体を温め、発散作用。 |
外証。風証。気滞証。血瘀証。 |
肺に作用。 |
酸(酸味)すっぱい。渋い。 |
縮小させる(収縮・固渋作用)。 |
虚に起因する発汗。虚に起因する出血。慢性的な下痢。尿失禁。 |
肝に作用。 |
甘(甘味) |
補う。解毒する。軽減する。薬能の調整。緊張緩和・滋養強壮作用。 |
陰虚。陽虚。気虚。 |
脾に作用。 |
鹹(塩味)塩辛い。 |
軟化と排除。大腸を滑らかにする。しこりを和らげる軟化作用。 |
リンパ系その他のシステムが戦っているときの腫れ。 |
腎に作用。 |
苦(苦味) |
上逆する気を戻す。湿邪を乾燥させる。気血の働きを活性化させる。熱をとって固める作用。 |
咳・嘔吐・停滞が原因の便秘。排尿障害。水湿証。肺気の停滞に起因する咳。血瘀証。 |
心に作用。 |
淡(淡味) |
利尿。 |
水湿証。 |
― |
【薬効】…健胃作用 鎮痛作用 殺虫作用
【用途】…山椒(蜀椒)?強い香りの健胃剤?
香辛料としては、中華料理、特に四川料理には欠かせない。
漢方薬としては大建中湯や烏梅丸に。
【学名】…Z. schinifolium SIEB. et ZUCC.
【禁忌】…陰虚火旺には禁忌です。
【注意】…陰虚火旺には禁忌です。
●日本薬局方
【出典】…神農本草経
【基原(素材)】…ミカン科サンショウまたは同属植物の果実です。
図01:蜀椒(山椒)の植物写真
図02:蜀椒(山椒)の生薬写真(果実)
図03:蜀椒(山椒)の植物写真
図04:蜀椒(山椒)の生薬写真(果実)
図05:蜀椒(山椒)の植物写真
図06:蜀椒(山椒)の植物画像
図07:蜀椒(山椒)の植物写真
本中薬(蜀椒(山椒))を使用している方剤へのリンクは次のとおりです。
大建中湯 »
当帰湯 »
生薬は、薬草を現代医学により分析し、効果があると確認された有効成分を利用する薬です。 生薬のほとんどは「日本薬局方」に薬として載せられているので、医師が保険のきく薬として処方する場合もあります。
中薬は、本場中国における漢方薬の呼び名です。薬草単体で使用するときを中薬、複数組み合わせるときは、方剤と呼び分けることもあります。
本来中薬は、患者個人の証に合わせて成分を調整して作るものですが、方剤の処方を前もって作成した錠剤や液剤が数多く発売されています。これらは、中成薬と呼ばれています。
従って、中国の中成薬と日本の漢方エキス剤は、ほぼ同様な医薬品といえます。
お馴染みのつま
山椒は中国や日本の各地に自生したり、庭木としてもよく栽培されるおなじみの落葉低木です。
小さな葉は対をなして互生していますが、木の芽あえを田楽にのせたり、摘んでパチンと手掌でタタいてから、冷奴や刺身や焼き魚のつまに、又すまし汁の香り付に皆さん使うでしょう。
雌雄異株で雌には初秋になると赤い表面のザラついた細かい実がたくさんできます。自然に実がはじけた頃(裂果という)、葉のつけ根についているトゲにチクチク刺されながら採取します。
薬草園にも山椒が植えてあり、チクチクと痛いけれども、他の根ものの薬草に較べれば楽な収穫作業を毎秋します。
陰干ししておくと、ほとんど開裂がすすんで、自然に中の真っ黒な固い種子がとびでてきます。
黒褐色になった果肉の部分が漢方薬として使われます。
これを粉状にしたものは、ウナギのかば焼きに欠かせないおなじみの粉山椒です。
黒色の種子の方は普通は使いませんが、古書に「種子は黒光りして人の瞳のようだ。
それで椒目という」と書かれているように、この種子は以前はお雛様などの人形の目に使われていたようです。
日本産はサンショウ Z. piperitum DC. に由来する。
山椒(蜀椒)?強い香りの健胃剤?
香辛料としては、中華料理、特に四川料理には欠かせない。
漢方薬としては大建中物や烏梅丸に。
1.【神農本草経】(西暦112年)
中医薬学の基礎となった書物です。植物薬252種、動物薬67種、鉱物薬46種の合計365種に関する効能と使用方法が記載されています。
※神農:三皇五帝のひとりです。中国古代の伝説上の人といわれます。365種類の生薬について解説した『神農本草経』があり、薬性により上薬、中薬、下薬に分類されています。日本では、東京・お茶の水の湯島聖堂 »に祭られている神農像があり、毎年11月23日(勤労感謝の日)に祭祀が行われます。
2.【本草経集注】(西暦500年頃)
斉代の500年頃に著された陶弘景(とうこうけい)の『本草経集注(しっちゅう)』です。掲載する生薬の数は、『神農本草経』(112年)の2倍に増えました。
松溪論畫圖 仇英(吉林省博物館藏)
陶弘景(456~536年)は、中国南北朝時代(420~589年)の文人、思想家、医学者です。江蘇省句容県の人です。茅山という山中に隠棲し、陰陽五行、山川地理、天文気象にも精通しており、国の吉凶や、祭祀、討伐などの大事が起こると、朝廷が人を遣わして陶弘景に教えを請いました。
そのために山中宰相と呼ばれました。庭に松を植える風習は陶弘景からはじまり、松風の音をこよなく愛したものも陶弘景が最初です。
風が吹くと喜び勇んで庭に下り立ち、松風の音に耳をかたむける陶弘景の姿はまさに仙人として人々の目に映ったことでしょう。
3.【本草項目】(西暦1578年)
30年近い歳月を費やして明代の1578年に完成された李時珍(りじちん)の『本草項目』です。掲載する生薬の数は、約1900種に増えました。
『本草綱目』は、1590年代に金陵(南京)で出版され、その後も版を重ねました。わが国でも、徳川家康が愛読したほか、薬物学の基本文献として尊重され、小野蘭山陵『本草綱目啓蒙』など多くの注釈書、研究書が著されています。
本草綱目は日本などの周辺諸国のみならず、ラテン語などのヨーロッパ語にも訳されて、世界の博物学・本草学に大きな影響を与えています。
儒者・林羅山(1583~1657年)の旧蔵書
李時珍(1518~1593年)は、中国明時代(1368~1644年)の中国・明の医師で本草学者。中国本草学の集大成とも呼ぶべき『本草綱目』や奇経や脉診の解説書である『瀕湖脉学』、『奇経八脉考』を著した。
湖北省圻春県圻州鎮の医家の生まれです。科挙の郷試に失敗し、家にあって古来の漢方薬学書を研究しました。30歳頃からあきたらくなって各地を旅行し調査したり文献を集めたりはじめます。ついに自分の研究成果や新しい分類法を加え、30年の間に3度書き改めて、1578年<万暦6年>『本草綱目』を著して、中国本草学を確立させました。
李時珍、生家にて »
4.【中医臨床のための中薬学】(西暦1992年)
現在、私が使用している本草の辞典です。生薬の記載個数は、約2,700種に増えました。
神戸中医学研究会の編著です。
【薬用部分】…
冷えたお腹を暖める
山椒は小粒でもピリリと辛い、の成分はサンショール、よい香りの精油成分とあいまって、薬としての作用は、芳香健胃剤で特に暖める作用がつよい。
駆虫作用もあります。
ですから、七味唐辛子や、お正月の屠蘇散の中にもよく入っています。
漢方薬の中には虫下しとして烏梅丸という薬の中に入っていたり、冷やえきったお腹の痛みをなおす大建中物という有名な薬の中にも入っています。
山椒の幹やたい枝は、擂(すりこぎ)によく使われます。成長の遅い木ですから木質が堅いのと、それ自体にも香りがありますから最適です。「擂亭」という料理屋が鎌倉山にありますが、日本食の代名詞になっている摺り鉢、擂も今の世代ではだんだん使われなくなったのは寂しいことです。「あえもの」を家庭で復活させよう!!
中国では、四川省(昔蜀の国)産が有名なので漢方薬としては蜀椒といいます。香辛料としては、花椒といわれて、中華料理、特に四川料理には欠かせません。四川省に4~5日滞在したとき、何を食べても山椒の香りが強烈すぎでまいったことがありました。
蜀椒(山椒)の画像