【大分類】止血薬…止血作用のある中薬です。
【学名】…Artemisia vulgaris
【別名】…ヨモギ
【中国読み】…AI YE
ヨモギは、日本でもヨーロッパでも道ばたでよく見かけられる植物で、かっては魔法や呪術に用いられる物と考えられていました。
中国・日本では、灸治療でモグサとして使用される他、重要な婦人薬でもあります。
西洋薬の研究においては、同じ科の青蒿(せいこう)(Artemisia annua)とともに、マラリアの治療に有効であることが分かっています。
【日本産地】…北海道を除く日本各地の山野
阿膠(ロバの皮のゼラチン)、熟地黄(キツネノテブク□)、当帰(カラトウキ)、川芎(四川ラビジ)、甘草(カンゾウ)、および白芍薬(シャクヤク)と配合して、妊娠中の出血や流産の危険があるときの伝統的な処方箋、芎帰膠艾湯に使用。
●乾姜(乾燥ショウガ)あるいは肉桂(シナモンの皮)と配合し、寒に関連する腹痛に使用。
経絡を温める。
・出血を止める。
・寒と痛みを散らす。
・咳や喘息における痰を取り除く。
薬物の治療効果と密接に関係する薬性理論(四気五味・昇降浮沈・帰経・有毒と無毒・配合・禁忌)の柱となるのが次に掲げる「性・味・帰経」です。
【温寒】…
温
※性:中薬はその性質によって「寒・涼・平・熱・温」に分かれます。例えぱ、患者の熱を抑える作用のある生薬の性は寒(涼)性であり、冷えの症状を改善する生薬の性は熱(温)性です。寒性、涼性の生薬は体を冷やし、消炎・鎮静作用があり、熱性、温性の生薬は体を温め、興奮作用があります。
性質 | 作用 | 対象となる病証 |
---|---|---|
寒/涼 |
熱を下げる。火邪を取り除く。毒素を取り除く。 |
熱証。陽証。陰虚証。 |
熱/温 |
体内を温める。寒邪を追い出す。陽を強める。 |
寒証。陰証。陽虚証。 |
平 |
熱を取り除き、内部を温める2つの作用をより穏やかに行う。 |
すべての病証。 |
味 | 作用 | 対象となる病証 | 対象五臓 |
---|---|---|---|
辛(辛味) |
消散する/移動させる。体を温め、発散作用。 |
外証。風証。気滞証。血瘀証。 |
肺に作用。 |
酸(酸味)すっぱい。渋い。 |
縮小させる(収縮・固渋作用)。 |
虚に起因する発汗。虚に起因する出血。慢性的な下痢。尿失禁。 |
肝に作用。 |
甘(甘味) |
補う。解毒する。軽減する。薬能の調整。緊張緩和・滋養強壮作用。 |
陰虚。陽虚。気虚。 |
脾に作用。 |
鹹(塩味)塩辛い。 |
軟化と排除。大腸を滑らかにする。しこりを和らげる軟化作用。 |
リンパ系その他のシステムが戦っているときの腫れ。 |
腎に作用。 |
苦(苦味) |
上逆する気を戻す。湿邪を乾燥させる。気血の働きを活性化させる。熱をとって固める作用。 |
咳・嘔吐・停滞が原因の便秘。排尿障害。水湿証。肺気の停滞に起因する咳。血瘀証。 |
心に作用。 |
淡(淡味) |
利尿。 |
水湿証。 |
― |
【薬効】…止血作用 月経調整作用 経絡を温める作用 寒と痛みを追い出す作用 咳・喘息の痰飲を除く作用
【薬理作用】…抗菌、抗真菌、去痰、子宮刺激
【用途】…艾葉は主に月経過多症や月経痛など月経異常の際に使用されます。
「胎児を鎮める」作用があると言われ、流産の恐れがある場合や不妊症にも処方されてきました。
寒証に関連する腹痛がある場合には、乾姜(かんきょう)または肉桂(にくけい)を配合する処方を使用します。
【学名】…Artemisia vulgaris
【禁忌】…癲癇(てんかん)の場合には禁忌(使用を控える)です。
妊娠中には必ず医師または薬剤師の指導に従って使用してください。
【出典】…名医別録
【三品分類(中国古代の分類)】… 神農本草経や名医別録などでの生薬分類法
中品(保健薬)
【基原(素材)】…キク科Compositaeヨモギまたはヤマヨモギ(オオヨモギ)の若葉。
図01:ヨモギの植物画像
図02:ヨモギの葉
図03:ヨモギの実
図04:ヨモギの花
図05:ヨモギの葉2
本中薬(艾葉)を使用している方剤へのリンクは次のとおりです。
芎帰膠艾湯 »
生薬は、薬草を現代医学により分析し、効果があると確認された有効成分を利用する薬です。 生薬のほとんどは「日本薬局方」に薬として載せられているので、医師が保険のきく薬として処方する場合もあります。
中薬は、本場中国における漢方薬の呼び名です。薬草単体で使用するときを中薬、複数組み合わせるときは、方剤と呼び分けることもあります。
本来中薬は、患者個人の証に合わせて成分を調整して作るものですが、方剤の処方を前もって作成した錠剤や液剤が数多く発売されています。これらは、中成薬と呼ばれています。
従って、中国の中成薬と日本の漢方エキス剤は、ほぼ同様な医薬品といえます。
北海道を除く日本各地の山野に見られる多年草で、茎の高さは50~100cmになり多数分枝します。
葉の裏面には白色の綿毛が密生し、秋には淡褐色小形の頭花を多数つけます。
地下の根茎は横向きに走行枝を出して伸び、各所から芽を出して拡がることから「佳萌草(ヨモギ)=佳く萌える草」の名が、あるいは、もぐさに因み良く燃えることから「良燃草(ヨモギ)」の字をあてるともいわれています。
属名はギリシャ神話の女神アルテミス(アポロンの妹で月の女神)が婦人病に賞用したことから、女性の健康の守護神といわれたことに由来します。
同属のオオヨモギ(Amontana Pamp.)は別名ヤマヨモギと称し、近畿以北から北海道、南千島、樺太などの北方系に分布し、全体的にヨモギに比べて大形で茎の高さは150~200cmとなります。
6~7月に採取した葉および枝先を乾燥したものが生薬「艾葉(ガイヨウ)」で、その基原植物はこれら二種です。
艾葉は艾(モグサ)の葉を意味しており、第十六改正日本薬局方第一追補に収載され、味は苦・辛、性は温とされます。
葉には精油が含まれ、その主成分はシネオール(cineo1)、ツヨン(α-thujone)などです。
止血、鎮痛作用などがあり、漢方では、『金匱要略(キンキヨウリャク)』に収載が見られる「芎帰膠艾湯(キュウキキョウガイトウ)」に配合されています。これは貧血や冷え症治療の基本処方である「四物湯(当帰、芍薬、川芎、地黄)」に甘草、阿膠および艾葉を加えたもので、主に女性の不正出血、月経過多、痔の出血、皮下出血などに応用されます。
一方、外用としてお灸に使う「もぐさ」は、それらの葉の裏の綿毛を集めたものです。主にオオヨモギの葉を5月頃に採取し、陰干しで乾燥してから臼でつき、粉末を取り去ると葉の裏の白い毛の部分が残ります。
良質のもぐさは葉脈や葉柄が混ざらず、白く柔らかい綿のようにしたもので、滋賀県の伊吹もぐさなどが有名です。
もぐさの成分としては蝋分、トリコサノール(tricosano1)、カプリン酸(capric acid)、パルミチン酸(palmitic acid)、ステアリン酸(stearic acid)などの脂肪酸の混合物が知られています。
日本語のもぐさがそのまま「moxa」としてヨーロッパにも伝えられました。
その他、伊吹の御百草などの浴湯剤に配合され、腰痛や冷え症、湿疹などに効果があるといわれています。また、新鮮な葉をよく揉んで外傷に貼ると出血が止まることが知られています。
さらには早春にヨモギの若葉を摘み取り、軽く茄でて餅や団子に入れると風味が豊かな草餅(よもぎ餅)になります。
1.【神農本草経】(西暦112年)
中医薬学の基礎となった書物です。植物薬252種、動物薬67種、鉱物薬46種の合計365種に関する効能と使用方法が記載されています。
※神農:三皇五帝のひとりです。中国古代の伝説上の人といわれます。365種類の生薬について解説した『神農本草経』があり、薬性により上薬、中薬、下薬に分類されています。日本では、東京・お茶の水の湯島聖堂 »に祭られている神農像があり、毎年11月23日(勤労感謝の日)に祭祀が行われます。
2.【本草経集注】(西暦500年頃)
斉代の500年頃に著された陶弘景(とうこうけい)の『本草経集注(しっちゅう)』です。掲載する生薬の数は、『神農本草経』(112年)の2倍に増えました。
松溪論畫圖 仇英(吉林省博物館藏)
陶弘景(456~536年)は、中国南北朝時代(420~589年)の文人、思想家、医学者です。江蘇省句容県の人です。茅山という山中に隠棲し、陰陽五行、山川地理、天文気象にも精通しており、国の吉凶や、祭祀、討伐などの大事が起こると、朝廷が人を遣わして陶弘景に教えを請いました。
そのために山中宰相と呼ばれました。庭に松を植える風習は陶弘景からはじまり、松風の音をこよなく愛したものも陶弘景が最初です。
風が吹くと喜び勇んで庭に下り立ち、松風の音に耳をかたむける陶弘景の姿はまさに仙人として人々の目に映ったことでしょう。
3.【本草項目】(西暦1578年)
30年近い歳月を費やして明代の1578年に完成された李時珍(りじちん)の『本草項目』です。掲載する生薬の数は、約1900種に増えました。
『本草綱目』は、1590年代に金陵(南京)で出版され、その後も版を重ねました。わが国でも、徳川家康が愛読したほか、薬物学の基本文献として尊重され、小野蘭山陵『本草綱目啓蒙』など多くの注釈書、研究書が著されています。
本草綱目は日本などの周辺諸国のみならず、ラテン語などのヨーロッパ語にも訳されて、世界の博物学・本草学に大きな影響を与えています。
儒者・林羅山(1583~1657年)の旧蔵書
李時珍(1518~1593年)は、中国明時代(1368~1644年)の中国・明の医師で本草学者。中国本草学の集大成とも呼ぶべき『本草綱目』や奇経や脉診の解説書である『瀕湖脉学』、『奇経八脉考』を著した。
湖北省圻春県圻州鎮の医家の生まれです。科挙の郷試に失敗し、家にあって古来の漢方薬学書を研究しました。30歳頃からあきたらくなって各地を旅行し調査したり文献を集めたりはじめます。ついに自分の研究成果や新しい分類法を加え、30年の間に3度書き改めて、1578年<万暦6年>『本草綱目』を著して、中国本草学を確立させました。
李時珍、生家にて »
4.【中医臨床のための中薬学】(西暦1992年)
現在、私が使用している本草の辞典です。生薬の記載個数は、約2,700種に増えました。
神戸中医学研究会の編著です。
【薬用部分】…
【中国での一般的服用量】…3~9g