●芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう) 筋肉や手足の痙攣(けいれん)を鎮め痛みを和らげる漢方薬!
〈糖尿病患者の腰痛〉
46歳の男性。
体重80kg。宝石などの飾り物の細工師。糖尿病で私のところに永年みえている。運動のメニューを差し上げても、いつの間にかさぼってしまう。平成4年6月、ある朝電話があり、昨日のこと、座って仕事中、突然腰痛が起こり、'立ち上がることはおろか、全身の痛みで自分で動くこともできなくなった。救急車を呼んで入院。検査を受けたが外科的原因は見つからない。糖尿病のせいかも知れないといわれ、鎮痛坐薬だけをもらって帰宅した。一夜あけたが全身の筋肉が痛み、まだ八分通り残っている。小便が2回しか出ないという。日頃暑がりで、附子は使えない。小便の減少が気になったが、芍薬甘草湯2週間分を速達で送った。2日後に痛みは下肢だけとなり、下半身の温浴と冷浴の交互を併用して間もなく治った。
〈下腹部痛〉
59歳の男性。
6年前膀胱腫瘍のために、膀胱を人工膀胱にする手術を受けた。その手術の跡が、天候の変わり目や、寒い時などに痛み、板のようにつっぱってしまうという。痛み止めとして、鎮痛剤を常用していたが、副作用と思われる症状が現れ、服用を控えるようになった。しかし、痛みがあるので、すこしでも鎮痛剤の服用回数を減らせる漢方薬はないかとの相談だった。下腹部の手術痕が、板のようにつっぱって痛むということだったので、芍薬甘草湯をあたえてみた。後日、本人が言うには、のむと腹が暖まるような感じがして楽になり、鎮痛剤の服用回数が、ずっと少なくなったとのこと。服用していると調子が良いとのことで、現在も継続中である。
〈くるぶしの痛み〉
20歳の男子。
ある日急にくるぶしの痛みを発し、錐で刺されるようで、また刀を以て刮られるようだといって苦しみ、手を触れることさえできなかった。多くの医師が診たが、何とも処方を考えるものがない。ある外科医が、これは化膿したのであろうといって穿刺してみたが、少しも膿も出ないし効がなかった。
そこで東洞先生を迎えて診ていただいた。腹筋量急してこれを按しても緩まず、ひどく緊張している。そこで芍薬甘草湯を作って、これを飲ませたところ、一服で忽ち治ってしまった。
〈全身筋肉痛〉
50余歳の男子。
じっとして安静にしていると平気だが、少しでも労働をすると、ひどい筋肉痛を発して、その痛みはがまんがならないほどである。三十年間も家業を廃していた。診ると全身に青筋(静脈欝血線)がある。そこで刺絡を施したところ毒血が沢山出た。次いで芍薬甘草湯を服用させたところ、十数日で平常に復し農耕に従事しても何ともなくなった。
〈腓腹筋痙攣(けいれん)〉
28歳の男子。
三カ月来毎夜腓腹筋の痙攣(けいれん)を発し、頭重と倦怠を訴えている。労働が軽いと痙攣(けいれん)も軽く、重労働すると発作も激しい。
二年前に条虫の駆除をしたことがあり、貧血していて赤血球は325万、血色素60%、血圧は90/68である。芍薬甘草湯を二日間与えたところ、作業は平常どおりであったが、痙攣(けいれん)は起こらなかった。
貧血に対して黄老日三銭、人参四銭、当帰三銭を五日間与え、三カ月間観察したが、腓腹筋の痙攣(けいれん)はそのまま治って終った。
〈胃痙攣(けいれん)〉
一青年。
肋膜炎にかかり、内科医の治療をうけていた。ある日内科医のところにおもむき、その場で突然胃痙攣(けいれん)を起こし、直ちに鎮痛の注射をしてもらったが一向に効かず、とうとう夜を徹して苦しみ、診察室で翌朝まで手当をうけたが、胃の痛みはますます激しくなるばかりである。やむをえずダットサンで家に帰り、痛い痛いと座敷中を転げまわっているが、何とか方法がないでしょうかと、妻君が泣かんばかりで相談に来た。
そこで試みに芍薬甘草湯を一回作って与えた。これを煎じてのむこと五分もたたないうちに痛みが止まり、午後には庭に出て歩いているというよろこびの報せがあった。
〈脊髄腔内腫瘍〉
54歳の男子。
大兵肥満の実業家である。初診は昭和三六年三月であった。初診のときは家族の者が背負ってやっとのことで診察台に運んできた。主訴は二年前から両下肢が全く麻摩して歩行不能となり、趾一本も動かなくなってしまった。いくつかの大学病院で精密な検査をうけて、脊髄腔内腫瘍という診断で、即刻手術の必要があるといわれた。患者は何としても手術はうけたくないという堅い決心で、漢方治療をしてみたいというのであった。初めに八味丸料、次に疎経活血湯各一カ月ずつ服用したが、いずれも効果は認められなかった。腹部をよく診ると、両側膀傍に拘急するものがあり、これを圧迫すると両脚に吊って痛むというので、芍薬甘草湯に転方し、山豆根末(悪性腫瘍によく用いられる)一日ニグラムを兼用した。
この方にして一カ月すると、左の足が少しずつ動き出した。そして五カ月後には家族の肩にっかまって、自ら足を運ぶことができるようになった。翌三七年一月には、一方は家族の肩につかまり、一方は杖をついて歩けるようになった。そしてかまわずこの方を続けていると、翌三八年七月には、ステッキを持って単独で歩けるようになった。
本方は別名去杖湯というが、この杖を捨て去るまでに至らず廃薬した。今年になって患者を紹介してきたので聞いてみると、今は脚はまだ不自由であるが、会社に出勤して元気に指揮をとっているとのことである。
〈結石による血尿が10日で治まる〉
医師のSさん(60歳・男性)は、過去に何度か尿路結石を患い、再発するたびに薬を用いて治療をしていました。
そしてある日、腹痛を感じてトイレに行くと血尿が出てしまいました。同じ医師仲間で漢方薬を用いて治療を行っているT医師に、以前から「漢方薬で結石治療をしてみたらどうか」と勧められていたこともあり、Sさんは、そのT医師に相談してみることにしました。
T医師から勧められたのは、芍薬甘草湯と猪苓湯でした。さっそくこの2つを朝夕交互に飲みはじめると、やがて結石が尿とともに排出され、服用から10日目には血尿が完全に消えました。その上、血圧も安定し、体調もすこぶるよくなったのです。
それからというもの、結石の再発予防と体調管理のため、1日1回猪苓湯を飲み続けているそうです。