●越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう) 浮腫(むくみ)から皮膚病や眼病まで応用範囲が広い漢方の妙薬!
〈火傷(やけど)〉
40代の婦人。
実証。揚げ物をしていて、左手の甲に油を浴び火傷してしまった。中指と薬指が特にひどく、すぐ水で冷やしたそうだが、痛みは激しく、2本の指がくっついて水膨れになってしまった。ガーゼに塗った紫雲膏を張り付け、越婢加朮湯を与えた。痛みはすぐ和らぎ、水泡も3週間で消え、皮膚は破けなかったので、ケロイドにもならず、約3ヶ月の服用で跡形もなく治った。
〈膝関節の疼痛〉
43歳の女子。
左側膝関節の痔痛を主訴として来院。全身肥満し、1度も妊娠したことがない。月経に常はなく、大便は1日1行。尿はやや頻数。舌には白苔がある。膝の痛みは、歩行時はもちろん、5分間以上すわっていると痛みに耐えられなくなるという。患部を触診するに、栂指頭大の脂肪塊様のものがあって、これを圧すると痛む。越婢加朮湯を投与したところ、15日間の服用で患部の塊状物が消失して、痔痛もなくなった。この治験に気をよくし、結核性膝関節炎に本方を用い、かえって落痛が増し、食欲も減少したことがある。越婢加朮湯は虚弱者には禁忌である。
〈全身アトピーの小1女児〉
小学校1年生の女児。
全身のアトピー性皮膚炎で、皮膚は乾燥して赤く、痒い(かゆい)のでかくと落屑が粉のように落ちる。毎晩1〜2回起きて全身を母親にかいてもらうという。食欲もあるし、口渇も強い。いろいろの手当てをしても効果が上がらなかったという。
問診すると汗をかかない子であると母親がいう。そこで汗腺の調節作用のある桂麻各半湯と白虎加人参湯を与えた。約2週間のむと少しずつ痒みが減っている状態になったが、口渇が甚だしいことと、異常に皮膚が乾燥し、座席に粉をまいたように落屑がでるのを目当てにして越婢加朮湯を与えたところ、2週間、4週間と経過がよく、皮膚に潤いがつき、痒みが減じ、約半年で完治に至った。学校で同級生たちにきれいになったといわれ、子供は喜んでいますと母親が言っていた。越婢加朮湯は皮膚疾患の場合、皮膚の「乾湿」はあまり考えなくてもよいといわれる。